鈴々舎馬るこさん―3


「うちの師匠(鈴々舎馬風)は、毎週欠かさず談志師匠の番組を観て、げらげら笑っています」
――ところで、葵寿司さんといえば、談志師匠と縁が深い店ですが‥。
馬るこ うちの師匠はネタでいろいろ言いますが、談志師匠が嫌いなわけじゃないです。僕が前座のときは談志師匠が出演する『言いたい放題』(※10)を毎週欠かさず観て、げらげら笑っていましたよ。弟弟子だったとき世話になったことを、今でもすごく感謝しているんです。談志師匠と2人で仲よさそうに写っている写真を、取材に来た人に嬉しそうに見せていたこともありました。
――でも、馬風師匠は寄席以外の公演で「立川流は志の輔クラスでもトリは取らせない。仲入り前もダメ」と言っていると‥。
馬るこ 国立(演芸場)の件だと思いますが、師匠が言ったのではなく、「落語協会」の公式見解ですよね。
――国立の件というのは?
馬るこ 落語協会の公式見解として、国立演芸場に立川流が出演する際に「出てもいいけどトリはダメ」と国立側に申し入れたことがあるんです(※11)。「寄席」というものが落語協会・落語芸術協会と提携している以上、「落語協会・落語芸術協会の認定する真打のみトリを取れる」と線引きをしておく必要があるとの考えからだと思います。なし崩しになって、ちょっと落語のうまいその辺のおっさんがトリを取ったりすると困りますからね(笑)。
 師匠自身はそういう微妙な面倒くさい話題は好きじゃないんですよ、本当は。でも落語協会としての立場もあるんで‥‥難しいですね。以前、うちの師匠と談志師匠に毒蝮三太夫さんを加えた会の企画を、うちの師匠の事務所から談
鈴々舎馬るこ
志師匠の側に持ちかけたんですが、諸々の事情で実現しませんでした。
――今後も「ハングル寿限無」のような路線や古典の改作に力を入れていきますか?
馬るこ はい。ぼくの落語は「初めて落語を聴いた人でも大爆笑」がモットーですから。お客さんが勉強してこないとわからないような落語は、好きじゃないですね。落語に出てくる昔の風俗、習慣、言葉など、若い世代には通じないことがどんどん増えています。僕だって生まれたときから炊飯器で、「へっつい(かまど)」でご飯を炊いたことなんかありませんし。
 でも、「お腹がすいた」「おいしいもの食べたい」って気持ちは今も昔も変わらないし、親が子を思う気持ちや男女の恋心だって、何百年も変わらないと思うんです。ぼくの落語はそういう人間の「芯」の部分さえ伝わればいいなと考えています。「ハングル寿限無」などをよくやっているので、「変な改作をする人」みたいなイメージで見られてると思うんですが、ぼくが描きたいのは人間の「心」です。→続き

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※10 TOKYO MXテレビで2008年8月30日まで毎週、土曜日に放送していた。
※11 馬風師匠は当時、落語協会副会長。




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