TOBU NERIMA  Itabashi−side

日本一、たぶん粋なお席亭さん「徳丸 三凱亭みよしてい

■落語好きの取引先が開設に全面協力
 独演会ができる会場を探していた落語家の古今亭菊龍さんが、東京・板橋区内でタイヤ販売店を営む関村さん宅を訪れたのは、2004年の暮れも近いころ。三味線教室の仲間で、落語や漫才が大好きな関村さんの長女・弓さんが「家の地下が空いているから、そこを使ったら」と声をかけてくれたからだ。弓さんのご両親、具由さんとみねさんは、落語にそれほど興味はなかったが、具由さんは相撲甚句の師範級の腕前。ちょうど駐車場に隣接する地下の空きスペースを相撲甚句の発表会に使えないかと考えていたところで、とんとん拍子に話が進んだ。
 店の取引先で、内装業を営む石井正男さんは根っからの落語好き。寄席を造ると聞いて、余りが出た壁紙を提供するなど、改装に全面協力した。ほかにも協力を申し出る人が相次ぎ、「観客を入れるような場所が造れるのか心配でしたが、いろいろな方に協力していただいて、とても助かりました」と、みねさん。年が明けた2月、菊龍さんの落語会「菊龍の昼下がりの暇つぶし」を柿落としに、「徳丸 三凱亭」がオープンした。
■月に一度は浪曲の会を開催
 最初は個室の楽屋がなく、菊龍さんと出囃子隊は客席後方から登場。これでは格好がつかないと、舞台横に楽屋を造り、スピーカー、看板、観客用の下足入
古今亭菊龍

「三凱亭」開設のきっかけをつくった古今亭菊龍さん。圓菊師匠の一番弟子
徳丸 三凱亭
れ‥‥と、興行を重ねるごとに設備を整えた。さらに入り口には開演中の舞台を映すモニターを設置、舞台と楽屋の仕切りを改良するなど、現在も“進化”を
続けている。三凱亭の寄席にこれまで3回出演している漫才コンビ、笑組(えぐみ)も「出演者の要望を聞いて、こんなにすぐ対応してくれるところはありません」と喜ぶ。
 開業すると、前座や二つ目の落語会の興行も増え、一昨年からは関村さんも浪曲会の主催を始めた。現在は土日を中心に落語会が月に数回、浪曲会が月1回開催されている。落語会は「家から歩いていけるところに寄席があるのはいいですね」という落語好きのOL、贔屓の噺家の落語を聴きに神奈川県内の勤務先から駆けつけた男性など、近所の住人と地元以外の人がほぼ半々。浪曲会は地元以外の人が多く、毎回、遠くから駆けつける常連客もいる。
 高座がはねると、客席は打ち上げを兼ねた交流会の会場に早替わり。出演者を交えて高座の余韻を楽しみながら、仕出し料理とドリンクでにぎやかに時がすぎていく。好評の漬物はみねさんのお手製だ。地元の人同士が顔見知りになったり、三凱亭に来た落語ファンと別の寄席でばったり顔を合わせたりと、交流も広がる。寄席を観に来た菊龍さんの知り合いの男性が弓さんを見初め、めでたくゴールインという嬉しい副産物も生まれた。

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