シェフねこ通信

「こしらの集い」第5回〜秋ごろ
&松葉杖で行った落語会(足首骨折記)



●「こしらの集い」(第5回〜秋ごろまで)**************************
 09年1月からほぼ月1で開かれている「こしらの集い」。最初は「ヤンキーの集会だったらどうしよう」とおそるおそる行ったのだが、こしらさん自身の話だと、見かけと違って元ヤンではないらしい。
 6月の第5回は「寿限無」と「禁酒番屋」。7月の第6回は「青菜」と「包丁」。一度は聴いたことのある噺で、目立った入れ事もなかった気がするが、こしらさん独特の味があって初物を聴くように引き込まれた。
 このころは政権交代≠フ選挙風の吹き始めで、「おれでも総理大臣の名前ぐらいは知っている」とか、民主党の国会議員の応援演説に行った話とか、珍しく政治がらみの話題が出ていた。応援に行った議員が自民党か、民主党か忘れてしまうところがこしらさんらしい。受付で販売していた足袋の形の煎餅を、常連のMさんが全部買い占めるという事件も発生。Mさんの隣に座っていたので、1袋ゴチになった。
 8月はご尊父の若林さんが大量の差し入れを持って来場(こしらも若林さんだ)。父・若林さんは息子に無理やりステージに引っ張り上げられ、親子のトークショー。父・若林さんは今でも「いつまでも落語やってないで家業を継げ」と言うらしい。この日はトークショーに加えて「あくび指南」「厩火事」「火焔太鼓」と充実の3席。デフレスパイラルの昨今とはいえ、1000円(Edy割引)でこの内容はヤマダ電機も驚きの超特価だ。
 9月は所用のため断念。常連さんによると、演目は「宮戸川」と「天狗裁き」。
 10月は高座に上がるなり「今日は皆さんにご紹介したい商品があります」と、久々に商品宣伝に熱が入るこしらさん。その商品というのが、携帯電話の電話帳と赤外線通信機能だけを取り出してメモリーを付けたようなpokenという機器で、ヨーロッパで大流行しているらしい(?)。たしかに、ヨーロッパの人はあまり携帯でメールをしないようだが‥。「携帯でいいじゃん、と思うかもしれませんが、まあまあそこは」とこしらさんはフォローになっていないフォローをしていたが、会場は反応薄め。落語は「王子の狐」と「小言幸兵衛」だった。「王子の狐」は後半にタヌキが出てくる改作バージョンで、キツネもタヌキもキャラ秀逸。オリジナルをはるかに凌ぐ面白さだった。ぜひ、もう一回聴いてみたい。

●松葉杖で行った二つ目さんの落語会(1)**************************
 11月の「こしらの集い」は骨折の通院日で行けなかったが、同じ週の「こしらサプライズ誕生会」には松葉杖で必死の参加。ギブス(※正しくはギプス)をしてから初の公共交通の利用だが、片足と松葉杖で歩くのは難行だ。地下鉄の乗り換え(普通なら数分の乗り換えに30分!)だけで腕の関節が抜けそうになる。腕力尽きて、駅から1〜2分の会場まではギブスの足にできるだけ衝撃を加えないようにしながらトコトコ歩く。予約を入れてくれた若い落語友だちのHさんが心配して、会場のエレベーターホールで待っていてくれた。
 誕生会はこしらさんの友人や仕事仲間の主催だ。「こしらの歴史」をまとめたスライドショーやビデオが上映され、ある意味ディープな内容。こしらさんは周りの人に愛されてるんだなあ。煎餅買占め事件のMさんはじめ「集い」の常連さんたちも来ている。
 会の後はHさんにつきあってもらい、久々の外食! ギブスをしてから買い物はもっぱらイトーヨーカドーのネットスーパーだ。中型店ぐらいの品揃えで生鮮食料品も店頭価格で購入でき、昼ごろまでに注文すれば当日中に届く。手負いの身でつくれる料理は限られるが、ネットスーパーがなかったら一人暮らしの食生活は相当、悲惨だったはずだ。配送料金も安くて本当に助かった。ヨーカドーさん、ありがとう!
 翌日は家でおとなしくしているつもりだったが、知り合いの金兵衛ファンの方からお誘いがあり、徒歩3〜4分の三凱亭へ。松葉杖で25分ぐらいかかった。難関は開いたらすぐ閉まる東武東上線の踏み切り。踏み切りを渡らないと三凱亭に行けないが、開いて5秒後に警報音が鳴り始めるときもあるから、渡るタイミングが難しい。間隔が長そうなときを狙って渡り始めたが、幅の狭い踏切を人と車が入り交じり、そこに自転車が突っ込んでくるので、なかなか進めない。半分少々のところで警報音が鳴り、遮断機が降り始めた。松葉杖を遮断機の向こう側に放り出してから、四つん這いになって遮断機の下をくぐり、何とか命拾い。
 これを教訓に、以後は踏み切り、信号、駅のホームでは両足で歩くことにした。ギブスの足は接地禁止だが、命には代えられない。50m、100mの距離でも運転手がクルマで送迎してくれるセレブならいいが、貧乏人は骨折するとしんどい。
 三凱亭に着くと「松葉杖で来てくれた」と世話人さんが大感激。「買い物はどうしてるの?」と席亭さんご夫妻やお客さんにもご心配いただく。皆さんの心遣いが身に染みた2日間だった。
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 この週から半ギブス(縦にカットした後ろ側半分を装着)になり、骨折した足が洗えるようになったが、松葉杖歩行が難行なのは相変わらず。骨折直後も「捻挫かなあ? 痛い」とか言いいながら歩いてたくらいだから、ギブスを巻いてからはトコトコ歩いても骨折箇所に痛みはない。雨の日と寒いときに痛むくらいだ。それより足の代わりに松葉杖で全体重を支える腕がマジで折れそうだ。痛くて珈琲カップも持てなくなるときがある。しかし、折れた足の接地は厳禁と言われているので、変なスポーツだと思ってやるしかない。そういえば、20世紀のスポ根漫画の代表作「巨人の星」に「大リーグボール養成ギブス」というあり得ない器具が出てきた。当時は大リーグがそれほど遠い存在だったんだなあ。
 週末、懲りずに「TEN大忘年会」へ出かけた。少し腕力がついた気がしたので、通常なら徒歩7〜8分の駅へ松葉杖で歩いてみたが、中間地点のコンビニ前で遭難。店の横のビルの入り口の階段でひと休みする。ふだんコンビニの前でしゃがんでいる年代の方々は気味悪そうにスルーしていくが、ご年配の方が次々と話しかけてくる。松葉杖効果だ。そんなこんなで駅まで45分。
 一足早い「大忘年会」は二つ目さんの落語と演芸を堪能した。落語は馬るこさんの爆笑「真田小僧」で幕開き。駒次さんの「鉄道戦国絵巻」は以前に聴いたときより落ちがわかりやすくなっていた。会場は池袋だったが、京浜急行ネタもけっこう笑いを取っている。京急がなりふりかまわず(すごく揺れる!)スピード出すのはけっこう有名らしい。NHKで賞を取った菊六さんの「豊竹屋」もよかった。
 噺家さんだけあって、演芸の面白さも半端ではない。個人的には駒次さんと時松さんの「あずさ2号」が超うけた。駒次さんは完璧な駅員のコスプレで登場。東急あたりの駅員をそのまま連れてきた感じだ。制服はどこで調達するんだろう。舞台の上なので靴を脱いでいて、しかも駒次さんは足が長いため裾が短めだ。舞台をホームに見立て、丸めた赤い旗で車掌に合図するパフォーマンスを大まじめにやる駒次さん。続いて時松さんが完璧な保線区員のコスプレで登場すると、隣のHさんが「時松さん、似合う〜!!」と大笑い。やはり足もとはソックスだ。歌も歌っていたが、メインはコスプレ。間奏で駒次さんが車内アナウンスを披露し、会場を沸かせていた。こみちさんも「エアー聖子」をノリノリで熱演。年明けのサンスポによると、こみちさんの独身最後のセーラー服姿を観る機会に恵まれた模様だ。スポーツ紙はどこで調べるのか、年齢も載っている。

●松葉杖で行った二つ目さんの落語会(2)**************************
 12月初め、骨折する前に受けた仕事の在宅作業が一段落したが、当然次の予定は決まらない。気晴らしと体力増強を兼ねて板橋駅前の二つ目さんの会へ行くと、受付の右太楼さんがメガネの奥の切れ長の眼を丸くして驚いている。やはりギブスと松葉杖で落語会に来る人はあまりいないらしい。この日の右太楼さんの「らくだ」は絶品。偶然、ご近所の若い落語友だち、Kさんと会場でお会いし、帰路も気遣っていただく。
 地元へ戻り、Kさんを誘って高級居酒屋の「旬菜創心」へ。松葉杖でこけると悲惨なので、あまりお酒は飲めないが、料理がおいし〜い。11月末に決死の思いで駅前のラーメン屋に行ったのを除くと、「TEN〜」の日以来の感激の居酒屋ディナーだ。店員さんも「席を立つときは松葉杖をお持ちしますよ」など、さりげなく気遣ってくれる。落語の話で盛り上がったところで閉店時間となり、Kさんを無理に誘って駅前の「949海」へはしご。串焼きが売りだが、洋風メニューも充実している。ここで閉店時間の4時過ぎまでおしゃべり(Kさん、ほんとにすみません!)。精算をすませると、松葉杖をきれいに2本そろえて待っていてくれた若い店員さんと店長らしき男性がほぼ直立不動で見送ってくれた。しばし感動。落語会へ行って、帰りにおいしいものを食べるたびに骨折箇所の痛みも減っていく気がする。やはり笑いとおいしい食事は効くのだろうか。
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 翌週から骨折した足の「3分の1荷重」がOKになり、晴れて両足で歩けるようになった。まだ半ギブスのままだが、八ヶ岳登山ぐらいの感じだった駅までの往復も、一気に高尾山ハイクぐらいにハードルが下がり、細かい買い物ならできるようになる。うれしくなって深夜に松葉杖で豚角煮まんを買いにコンビニへ行くと、見知らぬご婦人に声をかけられた。大たい骨骨折で4ヵ月入院し、1年間ギブス生活を送った経験をお持ちの方で、15分ほど立ち話。「あんた、足首ですんでよかったわよ」と慰められた。骨折経験のある店員さんが声をかけてくれたこともあったし、見知らぬ人にもずいぶん励ましていただいた。
 12月の「こしらの集い」は大雨と通院のため断念。12月は雨の日が数日だったのに、折悪しく当たってしまった。考えてみると、骨折したのが10月だったのは不幸中の幸い。梅雨の季節や夏はもっと大変そうだ。
 19日は再び三凱亭の立川流の会。今度は10分少々で到着した。立川談奈さんがまくらの途中、高座の後方に落とした羽織を拾おうとして、高座から転落する珍事が発生(談奈さんは飲酒していたわけではない。天然なのだ)。再び高座に上がった談奈さん、袖を通した羽織の紐を結びながら「どこまで喋ったかわかんなくなった」。そりゃそーだろ。隣の常連さんは落語が始まってからも笑いが止まらず、困っていた。

●松葉杖で行った二つ目さんの落語会(3)**************************
 3分の1荷重に慣れてきたので、祝日前の平日の夜、都心の繁華街の落語会にトライしてみることにした。
 会場にエレベーターがあることをネットで確認し、夜7時スタートの「二ッ日(にっぴ)勉強会」へ。場所はサラリーマンの街$V橋だ。クリスマスと忘年会シーズン、しかも休日前。JRの改札を出ると、駅のコンコースは人がいっぱいで出口が見えない。黒っぽいコートを着た人が多く、たいがいは髪の色も黒っぽいから、まさに黒山のひとだかり(たかってはいないんだけど)。何とか駅から出ても人がいっぱいで前が見えない。だいたいの方向はわかっていたので、線路際を品川方面に進む。立ち呑みの店やフーゾクっぽい店が並び、ギブスに松葉杖でひーこら歩くおばさんはいかにも場違い。客引きのおにいさんや立ち呑み客、焼き鳥屋の店員が物珍しそうに振り返って見ている。動物園から逃げてきた珍獣みたいだ。
 注意しても見逃してしまう雑居ビルの狭い入り口をようやく見つけ、フーゾク店の合間のフロアにあるライブハウス「Red Pepper」に到着。店内に入ると、入り口に座っていた春風亭一左さんと三遊亭粋歌さんが「お怪我されたんですかあ?」と声をかけてくれた。2人は受付をしているのかと思ったら、楽屋が狭くて入りきれず、入り口に座っているのだという。店は古い、狭い、暗いの三重苦だが、高座は意外に見やすかった。
 一左さんも粋歌さんも若々しさと活きのよさがあって、楽しませてくれる。二つ目なりたてなのにレベルの高い、いい会だ。たん丈さんの「死神」にもびっくり(いい意味で)。二つ目昇進が決まったころのたん丈さんは、着物のおじさんが座布団の上で独り言を言ってる感じだったが、2年の間に大変身。粋歌さんが「今日はたん丈兄さん、絶好調!」と言うくらい聴き応え十分だった。Red Pepperの海千山千なオーナーも褒めてたし。会場の薄暗い雰囲気や小泉純ちゃん(元首相)のような髪型もネタに合っていたかもしれない。人は中高年になってもまだまだ成長するのね。私も老体にムチ打ってがんばろう。
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 24日は池袋で三遊亭金兵衛さんの独演会。半年に一度の楽しみな会だ。一門の弟弟子、時松さんも一席。時松さんは「牛ほめ」、金兵衛さんが「厩家事」と「富久」。漫談は青空うれし先生とイエス玉川という、ある意味すごいラインアップ。でも、漫談は歴史をさかのぼりすぎて、1950年代生まれの私でも「え〜っ??? 今のわかんねえ‥」というギャグがけっこうある。お笑いはホントむずかしいな。
 会の後は同僚を伴って来場した金兵衛ファンの方に飲み会に誘っていただいた。同席の皆さんが素敵な方ばかりで、楽しいイブの夜はあっという間にすぎ、11時を回ったころに店を出ると、池袋の駅前は2日前の新橋がウソのように閑散としている。大方の忘年会やクリスマス関係のイベントは22日に済んでしまったのか、不景気のせいか、とにかく帰りの電車が空いていてよかった。
 翌25日でギブスは終了。しばらくサポーターを使うという話だったが、いきなり生足で歩くことになった。もう松葉杖も必要ないと言われる。とはいえ、2ヵ月近くギブスをはめていたので、生足で歩くのが恐ろしい。
 26日は念のため松葉杖1本持参で、浅草の文七まで遠出。Hさんとカメラマンの武藤さんにお会いする。武藤さんには当サイトの二つ目さんインタビューにご厚意で写真をご提供いただいている。09年は4人の二つ目さんにインタビューにご協力いただいた。林家ぼたんさん、柳家右太楼さん、立川志ら乃さん、古今亭駒次さん、無理なお願いを快く聞き入れていただき、本当にありがとうございました。改めて深く感謝申し上げます。

●09年の締めは馬るこさんのカウントダウン**************************
 いきなり生足歩行で遠出したので、長らく使ってなかった右のふくらはぎの筋肉痛がすごい。ついでに左まで筋肉痛だ。何とか持ち直し、大晦日はKさんが席を確保してくれた、落語カフェの鈴々舎馬るこさんの会「百八つ小噺カウントダウン」へ出かけた。初夏の観劇ツアーでお会いした馬るこファンやマイミクさんとも久々に再会。他の落語会で顔見知りになった方もけっこう来ている。百八つの小噺の後は待望の落語! 馬るこさんが客席を走り回る「初天神」だ!! 斬新だし、超面白い! 古典落語の構造改革だ。噂に聞いていたが、ナマで体験できて超ラッキー!! このご利益で2010年はいい年になりそうだ。この後、会場に遊びに来た一左さんも加わり、新年のカウントダウン。二つ目マニアには極上の年越しである。
 味も量も落語カフェのオーナーの心意気が伝わるブッフェでしばし歓談。午前3時過ぎに解散となり、KさんやTさんはじめ計6人で靖国神社に参拝。帰りにファミレスへ暖まりに行き、明るくなるまで落語談義で盛り上がった。
 松葉杖持参で行く落語会は、このカウントダウンで終了。行く先々でお気遣いくださいました噺家さんや落語会でお会いした皆様、励ましてくださった見知らぬ方々、本当にありがとうございました。

●骨折ブログを読みあさる**************************
 腓骨骨折した方々の骨折ブログ≠ノも勇気づけられた。皆さん松葉杖の扱いに苦労していたことがわかって気が楽になったし、いろいろ参考になった。
 今後どなたかのお役に立てばと、腓骨骨折の骨折記サイトのリンク集と治癒経過表をつくってみた。興味のある方はこちら。

※ギブスは正しくは「ギプス」(gips)ですが、通常の会話で「ギプス」と発音する人はほとんどいないので、「ギブス」と表記しました。
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