このインタビューは2008年8月、立川雲水さんが二つ目のときに行ったものです

立川志雲( 雲水)さん―3


「金払たら弟子になれんのか、思うて大失敗。人生、金で解決しようとしたらあかんね」
――二つ目昇進は何人かいっしょに?
志雲 生志兄貴といっしょです。僕らは歌舞音曲があかんから長いこと二つ目にしてもらえんかったんです。新宿のアイランドホールで生志兄さんと披露目の落語会やった後、京王プラザでパーティーやったんですけど、異常といえるぐらいの大風と極寒の日でした。風のせいで飛行機が遅れたんやから、なんせ。朝起きてシャワー浴びよ、思うたら、凍ってて水が出まへんねん。東京に出てきて水道管凍ったなんて、後にも先にもその日だけですから。会場まで移動するのも、まあ風がすごくて。しかし、思たら、あれ以来、ず〜〜と向かい風やね。追い風なんてひとつも吹けへん。陽も当たらん。
――お金で入門を何とかしようとしたのがよくなかった?
志雲 天罰てきめんやね。人生の一大事を金で解決したら、ロクなことおまへん!
――上方落語には東京ではあまり知られていないネタも多いですね。
志雲 上方落語、意外に理詰めなんですよ。同じ噺でも、上方のほうが話の運びが合理的になってたりしますね。よう言われるのが「時そば」と「時うどん」。そばとうどんの違いに目が行きがちですけど、噺の演出もね、だいぶ違うんです。「時そば」は客が1文ごまかすところを別のやつが陰で見てて「何かおかしい。あいつ変なタイミングで時間聞きよったで。あそこで1文掠めたのか」と気づくんです。で、あくる日、自分がやって、しくじるわけですね。
 「時うどん」はまず喜六と清八が2人でうどん屋に行くんですよ。2人合わせて15文しかないのをわかってて、うどんを食べる。清八がうまいこと1文ごまかして店を出るんですが、喜六のほうは気づいていない。
「おまえ16文払ろたがな」
「15文しか払てないで」
「いや目の前で16文払てた」
「おまえアホやなあ、まだ気づかんのかいな」と、清八に種明かしされて初めてトリックに気
立川雲水 づくんです。そして、そのトリックプレーを再現しようとしたやつが翌日しくじる。このほうが理にかなってるでしょ。自力でトリックを見破れるやつなら、次の日しくじったりせえへんがな。
 「時うどん」のほうは2人のときと同じように1人でやろうとするから、ちぐはぐなやりとりのおかしさも増すんですわ。「時そば」には「時そば」のおかしさがあるんで、どっちがええとか悪いとかってもんではないですけどね、もちろん。
――噺家さんも新作中心の方、古典だけの方といろいろですが。
志雲 新作落語は非常に魅力ありますけど、難しいですねえ、一からストーリー立ち上げるのは。下げに持っていくために骨組みから始めて、肉付けから何からやって、たとえ一本でも落語をこしらえるちゅうのは、なかなか。だから、コンスタントに新作つくり続けてる人はすごいと思いますね。いろいろ考えて、何回かやったことあるんですけど、受けないし、浅いしね。でも、ほんと、やりたいですよ。
 あまり高座にかからない古典にも骨格自体は面白い噺がけっこうあって、二つ、三つやってみたい候補があるんです。伝わってるまんまやと、わかりにくかったり、古すぎたりって感じなんで、自分がやってて楽しく、お客さんにも面白いと思ってもらえるように、ちょっと演出変えたりしてね。
――ご自身の新作にも期待しています。

立川雲水

profile
立川雲水(たてかわ うんすい)
本名:矢野究(きわむ)。1970年3月31日、徳島県生まれ。兵庫県神戸市で育つ。1988年11月、立川談志に入門。前座名「志雲」。1997年2月二つ目昇進。2009年12月真打昇進、「雲水」に改名。



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