TOBU NERIMA  Nerima−side

歌への想いをもう一度

 ―シャンソンで心をつなぐ―
小口満寿美さんと「ニコールライブ」



 毎月第1日曜日の夕刻、華やかなアクセサリーやたくさんの服で彩られた駅前のブティック「ニコール」が、いちだんときらびやかな光を放つ。これから店内でシャンソンのライブが始まるのだ。唯文さんらプロの歌手やエンターテイナーがレギュラーとして顔をそろえ、会場のセッティングも和気あいあいと進む。
 聖歌隊のメンバーを務めるなど10代から音楽に親しんでいたブティックのオーナー、小口満寿美さんは、友人の誘いで日本のカンツォーネ歌手の第一人者として知られた故・村上進さんに師事。そこで出会ったシャンソンの世界に、すっかり魅入られてしまった。「最初は友人に付き添うだけのつもりだったのに、あらら〜って、気がついたら自分も生徒になってたの」と、極めて自然体な小口さん。ブティックのインテリアとしてグランドピアノを入れたのを機に、村上さんが年に数回、ニコールでライブを行うようになり、1994年に村上さんが亡くなる直前まで続いた。
 村上さんの縁で知り合った唯文さんとMihokoさんから「ニコールでまたライブをやりましょう」と熱心なラブコールを受けたのは、10年近くを経た2002年の暮れのこと。かつては本業のアパレルデザインやブティック経営の合間を縫って、本格的なライブ活動を行っていた小口さんは、師の村上さんを亡くした後、人前で歌うことを封印していた。以前のように店でライブを開くことも全く考えていなかったが、「村上さんの歌への想いが、唯文さんや美穂子さんをここへ呼んで来てくれたのかな」と思い直し、装いも新たに「ニコールライブ」がスタートすることになった。グランドピアノやスピーカーなどの音響機材は、村上さんがライブで使用していたものが今も活躍している。
 昨年の暮れには5周年を迎えた。地元の人だけではなく、別の会場でレギュラー出演者のステージを観てファンになり、「また聴きたい」と、遠くから来てくれる
小口満寿美さん
「ニコール」オーナー、小口満寿美さん。東京都台東区生まれ。10代の半ばから東武練馬に在住。

人も増えてきた。座りきれないほど観客が多いときもあれば、少ないときもあるが、「もともと採算は度外視してやっていますから。それより一人でも多くの人に聴いてもらって、シャンソンの輪を広げていく拠点になるといいなあ」と、レギュラー最年少の平谷雄輝さん。
 何十年と通う常連客から若い学生まで、店内は訪れる人が途切れることがない。ライブがない日に唯文さんらが店に顔を見せ、お客さんとの雑談に花を咲かせることも。周囲の空気を和ませてくれる温かさを持ちつつ、しっかりと大きな流れをつくってくれる小口さんの人柄が、多くの人を惹きつける引力になっている。
 ライブ再開当初は場所を貸すだけのつもりだったという小口さんだが、「そのうちに欲が出て、ここから若い人が大きく羽ばたいていってくれたら」と考えるようになった。年下のアーティストたちの歌への熱い想いに触れ、長い間、自らに課していた“封印”も解いた。「シャンソンだけと限定するのではなく、いろいろなジャンルに挑戦して、幅広く楽しめるライブにしていけるといいわね」と、今後の抱負を語る小口さん。若いころから変わらない、魅力的なハスキーボイスも健在だ。

小口満寿美さん


ニコール

東武東上線 東武練馬駅前のブティック。店内のアイテムは洋裁学校在学中にデザインコンクールで全国優勝したキャリアを持つオーナーの小口満寿美さんが自らセレクトした1点もの。営業時間:10時〜20時ごろ。月曜定休。TEL03-3931-0982


TOPへ戻る